海賊版ネット投稿者情報、知財高裁「海外企業も開示命令対象」…「国内限定」の従来判断に「柔軟な解釈必要」

著作物を台湾企業の接続サービス経由で日本語サイトに無断投稿された女性が、損害賠償を求めるため投稿者情報の開示を申し立てた裁判で、知財高裁が「海外企業の接続サービスも開示命令の対象となる」との判断を示したことがわかった。従来、日本の裁判所の開示命令が及ぶ範囲は国内企業に限定されるとの考え方が一般的だったが、宮坂昌利裁判長は「情報流通の国際化を考えると、柔軟な解釈が必要だ」と指摘した。

高裁決定は昨年10月4日付。女性の申し立てを退けた1審・東京地裁に審理を差し戻し、同地裁は1月7日付の決定で、台湾企業に投稿者の氏名や住所などを開示するよう命じた。女性側は現在、開示に向けた手続きを進めている。海賊版による著作権侵害が後を絶たない中、一連の司法判断は被害救済の道を開く可能性がある。

関東地方に住むイラストレーターの女性は2023年8月、自身が創作したイラストがネット上に無断投稿されているのを確認。プロバイダー責任制限法(プロ責法)に基づき、投稿に利用された接続サービスを提供していた台湾企業に対し、投稿者の氏名や住所などの開示を求める裁判を起こした。

国内最大級の品揃え【DMMブックス】ロリポップ!
ファッション雑誌No.1 宝島社公式通販サイト『宝島チャンネル』

 プロ責法は、訴えが「日本の業務に関するもの」でなければ国内裁判では取り扱えないと規定する民事訴訟法を参考に作られている。昨年3月の地裁決定はこの枠組みを踏まえ、「投稿は台湾のユーザー向けの接続サービスが使われたとうかがわれる」とし、女性の申し立ては「国内裁判の対象外」として退けた。

 これに対し、高裁決定は、まず「ネット上の国境を越えた著作権侵害に対し、司法の救済に支障が生じないよう適切な対応が求められる」と言及。「地域的、国際的にオープンな性格を持つ接続サービスの特性を踏まえ、硬直的な判断は適切ではない」との考え方を示した。

 その上で、問題の投稿は日本語サイトに向けて行われ、投稿の一部には日本語の記載があったことから、台湾企業が日本人向けに提供するSIMカードを利用して行われた可能性が高いと判断。「海外サービスが利用されたからといって国内裁判の対象外と判断するべきではない」と指摘し、「女性の申し立ては日本の業務に関するものだ」と結論付けた。

 女性の代理人を務める 瀧坪たきつぼ 渉弁護士は高裁決定について、「ネット上では国境を越えた無断投稿が後を絶たず、実情を踏まえた決定だ」と話した。

 ◆ 海賊版 =音楽やアニメ、映画、漫画などの作品が、著作権者に正当な対価が払われないまま、無断で利用できる状態となっているもの。デジタル化の発展やスマートフォンの普及に伴い、作品の流通が容易となり、被害も増えている。

被害2兆円 救済に光

 アニメや映画などの著作権者でつくる「コンテンツ海外流通促進機構」(東京)の調査によると、海賊版の被害額は2019年に3330億~4300億円だったのが、22年には1兆9500億~2兆2020億円に上ったと推計されている。被害は、今回のように一般のサイトに投稿するケースのほか、「海賊版サイト」によるものもある。

 複数の弁護士らによると、海外の接続サービス経由で投稿が掲載される場合については、昨年3月の地裁決定のように、「『日本の業務に関するもの』との規定に該当しない」という考え方が強く、被害回復に取り組む弁護士らの間でも、国内の裁判手続きを断念するケースがあったという。

 ネット上の権利侵害に詳しい田中一哉弁護士(東京弁護士会)は、「知財高裁が今回示した解釈が定着すれば、海外法人に対しても裁判を起こしやすくなり、被害救済の道が広がる」と話している。

 一方、日本の出版社や通信事業者などでつくる海賊版対策団体「ABJ」によると、漫画などの海賊版サイト数は国内外で1200ほど確認されている。昨年11月には、利用者の多い日本向けの海賊版上位10サイトの1か月間のアクセス数が過去最悪の約5億4000万に上っている。

情報元
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250303-OYT1T50009/