音楽の「海賊版」が再び増加。手口はYouTubeからの抜き出しが最多に

2月4日(米国時間)、第66回グラミー賞授賞式出席のため、ロサンゼルスには数十人ものアーティストが集まった。コメディアンのトレバー・ノアはジョークを言い、ミュージシャンたちはトロフィーを受け取った。しかし、そうした間にも、誰かがインターネットのどこかで、対価も払わずにアーティストたちの音楽をダウンロードしているのだ。

音楽の海賊版サイトへの訪問回数は2023年、世界で170億回を超えた。調査会社のMusoによると、この数字は22年から13%も増加しているという。SpotifyやApple Musicのような音楽配信サービスの登場によって、楽曲の海賊行為は何年も減少している。それを考えると、少々驚きの結果だ。Musoの調査結果が示しているのは、「消費者が非正規チャネルを使う理由を、業界が早急に理解する必要がある」ということだ。

海賊版が増えてきた要因

この7年間、楽曲の海賊版は、全体的に減少傾向だった。Musoの最高経営責任者(CEO)アンディ・チャタリーによると、その大きな理由はアーティストやレーベルが、特定の音楽配信サービスにだけ楽曲を提供するのをやめたからだ。

例えば、16年にはビヨンセの『Lemonade』やフランク・オーシャンの『Blonde』などのアルバムは、TidalやApple Musicの独占配信だった。そして、アルバムの海賊版をつくっていたのは、それらのサービスを使用していない人だった。ユニバーサル ミュージック グループのCEOであるルシアン・グレインジがこの慣行を非難する声明を出してから、楽曲の独占配信は減少し、海賊行為も減少していた。しかし、いま海賊行為はまた急増しているのだ。

その要因は複数あるが、ひとつには、人々が音楽配信サービスの利用料を負担できないことにあるとチャタリーは話す。別の要因としては、モバイルデータの通信料もある。データ通信料の高い一部地域では、楽曲をストリーミングするのではなく、Wi-Fi経由でスマートフォンに楽曲をダウンロードすることを選ぶ人もいる。

海賊行為の「手口」とは

チャタリーはMusoの調査結果について、ある驚くべき数字を指摘した。それは、海賊曲の約40%が、YouTubeから曲を抜き出してダウンロードするサイトによるものだったという点だ。この方法は違法な配信サービスやP2Pファイル交換ソフト(トレント)、そのほかのウェブ経由のダウンロードよりも大きな割合を占めていた。「これは本当に重大な問題です」とチャタリーは話す。

YouTube側に、Musoの調査結果について問い合わせた。YouTubeの広報担当ジャック・マロンは、YouTube側で楽曲を違法に抜き取るツールに気づいた場合、問題のドメインをブロックし、技術的にそうしたツールを使用できないようにしていると述べた。YouTubeは専門スタッフを雇って、そうしたアプリケーションの背後にいる人たちに差し止め通知を送っているという。

「著作権を守るためのツール開発に、多くのリソースを投資しています。また、ほかの業界リーダーとも綿密に協力し、テック企業が海賊行為と戦うための基準づくりもしています」「わたしたちは今後も、そうした取り組みを強めていきます」とマロンは語った。

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違法ダウンロードの莫大な規模

Musoは調査報告書で追跡した、違法な音楽抜き取りサイトが具体的にどこなのかを明らかにしていない。海賊版サイトを宣伝しないためだと、チャタリーは説明する。また、こうしたサイトでの楽曲のダウンロード数も公開していない。その代わりに、全体の規模を理解できるよう、23年におけるトレント経由でのダウンロード数をチャタリーは示した。例に挙げたのは、テイラー・スウィフトのアルバムだ。

スウィフトは24年のグラミー賞で6部門にノミネートされた。23年はニューアルバムこそなかったものの、米国の売上トップ20のリストには彼女のアルバムが6枚も入っているし、再録版である『1989 (Taylor’s Version)』(2023年発売)は約290万枚も売り上げた。『1989 (Taylor’s Version)』は、この約10年で最も売れたアルバムである。そして、このアルバムはトレント経由で27万5,000回以上もダウンロードされていた(14年発売のオリジナル版『1989』は43万回もダウンロードされている)。

売上トップ20に入っているスウィフトのほかのアルバムも、トレント経由で多数ダウンロードされている。例えば、22年発売の『ミッドナイツ』は23年、49万3,000回以上ダウンロードされた。『スピーク・ナウ』『レッド』『フォークロア』『ラヴァー』『エヴァーモア』といった人気アルバムも、そのほとんどが40万〜70万回ダウンロードされている。

すべて合わせると、スウィフトのアルバムは23年、最大500万回もトレント経由でダウンロードされたことになる。Luminateのデータによると、その期間にスウィフトのアルバムは米国だけで1,900万枚売れていた。それに比べると、違法ダウンロード数は小さく思えるかもしれない。しかし、トレント経由は、海賊版のうちごく一部にすぎないことを思い出してほしい。全世界の海賊版サイトへの訪問数のうち、トレント利用者は約3%に過ぎないのだ。

こうして、楽曲の海賊版は、またも増加することとなった。Napsterの登場から四半世紀近くが経過し、曲購入やストリーミングの選択肢もたくさん誕生してきた。それにもかかわらずだ。インターネットから音楽をくすねる行為は、今後もなくならないのかもしれない。

情報元
https://wired.jp/article/music-piracy-way-up/