NHKがBS再編でチャンネル削減、それでも1+1=1の謎…「サービスは低下していない」と言うけれど

NHKのBSチャンネルが12月1日から一つ減るのはご存じ? 「新BS始まります!」と今秋以降、衛星放送“再編”のPRに余念がないNHKだが、普段、BSを見慣れている視聴者にもいまだに十分に伝わっていないようだ。何がどう変わるのだろう。(文化部 旗本浩二)

受信料値下げに合わせてスリム化

 「なくなるなんて全然知らなかった」。11月中旬、普段からBSプレミアムをよく見るという60代女性にチャンネル再編について尋ねたところ、困惑気味にこんな答えが返ってきた。「NHKのホームページを見てもよく分からない。ちょうど衛星契約料金支払いの請求が来たところなのに……」

 NHKのBSチャンネルは現在、ハイビジョン画質(2K)では、ニュース、スポーツ、ドキュメンタリー中心のBS1(101)と、ドラマや自然・紀行ものなどエンタメ番組で構成するBSプレミアム(103)がある。ほかに、画面の総画素数が2Kの4倍という高精細映像4KによるBS4Kもある。細かく言えば、さらに高精細な8KによるBS8Kもあるが、視聴者が家庭で楽しめるのは現実的にはBS4Kまでだろう。

 このうち12月1日から、2Kチャンネルが一本化されて「NHKBS」となり、BSプレミアムが放送されていた103は来年3月末の停波に向け、番組移設や停波時期を周知するチャンネルとなる。

 新たなNHKBSは「国際報道・スポーツ・エンターテインメントが凝縮したチャンネル」だそうだが、要は実質的に《2Kが1チャンネル減る》というのが、今回の再編のポイントだ。これは、安定した受信料収入を背景に肥大化が指摘されて久しいNHKが、10月からの受信料1割値下げに合わせて業務をスリム化した結果だが、「チャンネル減=サービス低下」とも思われかねない。だからこそ“凝縮感”をアピールするわけだ。

再放送減らして無駄を排除

 気になるのは、それまで見ていた番組の行方だが、「再編により廃止される定時番組はほぼありません」という。はて? 二つのチャンネルを一つにするということは、コップの水に例えるなら、二つのコップに入っていた水が一つのコップに注がれるという意味だろう。つまり、1+1=2となり、当然、こぼれ出るものもあるはず。それが1+1=1とは手品のようだ。しかし、そこにはカラクリがある。NHKのBSチャンネルではこれまで、過去番組の再放送で埋めていた時間帯が多く、とりわけ、21~23年度のNHK経営計画で再編の方向性が打ち出された21年度以降、その傾向が強まっていった。

 ドラマにしろ、ドキュメンタリーにしろ過去の秀作の再放送は、懐かしいだけでなく、現代の視聴者に新たな視点を提供する意義もあるが、視聴者から「BSは再放送が多すぎる」との苦情が多いのも事実。また、過去の作品は、有料インターネットサービスのNHKオンデマンドがその役割を担うとも考えられ、満を持しての再編では、再放送を極力減らすことで無駄のない1チャンネルを作り出したというわけだ。

“凝縮感”アピール、先端研究伝えるドキュメンタリーも

 具体的に番組表を眺めると“凝縮感”は、平日の朝にまず現れる。BS1では「ワールドニュース」が放送されていた時間帯だが、7時15分から現在のBSプレミアムの編成が押し込まれる。まず連続テレビ小説「まんぷく」の再放送があり、それに続き、7時半から同「ブギウギ」。さらに7時45分から「にっぽん縦断 こころ旅」となって、午前8時からワールドニュース(同9時半まで)に戻る。国際ニュースファンはそこまで辛抱というわけだ。

 昼から夕方までの時間帯は、プレミアムで人気だった映画枠が用意され(午後1時~3時50分)、その前後をワールドニュースなどが挟む形となる。ただ、映画枠は大相撲期間中は休止となり、映画ファンには泣いてもらわねばならない。

 平日・休日を問わず、夜の時間帯は「ワイルドライフ」「世界ふれあい街歩き」「美の つぼ 」「新・BS日本のうた」など、プレミアム時代のレギュラー番組が占める。もちろん時代劇、現代劇、海外作品などドラマ枠も用意されている。ただ、平日午後10時からは、BS1のニュース番組「国際報道」を放送する。ほかに「球辞苑」「BS世界のドキュメンタリー」「ランスマ倶楽部」などBS1の人気番組が、パッチワークのように配置され、これまでの番組の移転先を探す 検索ページ も設けられた。

 新番組もある。12月6日からは、科学からアートまで最先端を切り開く研究を伝えるドキュメンタリー「フロンティア」(水曜後9時)がスタート。初回は「日本人とは何者なのか」と題して、数万年前の骨から大量の情報を読みだす「古代DNA解析」に迫る。ナレーションを務めるオダギリジョーは、11月27日の記者会見で「フロンティアにいる方々だからこそ、感じていることや見えている景色を共有できる」と番組の魅力を語った。今後はAI(人工知能)や火星などを取り上げる。

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4K普及の起爆剤となるか

 再編についてNHKは「従来の番組が見られる以上、サービスは低下していない」と強調する。しかし、受信料は1割値下げされたが、衛星契約は月額で地上契約よりも850円高く設定されている。2Kしか見ていない視聴者の中には「1チャンネルにこの金額はちょっと……」と感じる人もいるかもしれない。そこで新たな選択肢となりそうなのが、同じ料金で楽しめる4K放送だ。

 NHKは、従来のBS4Kを12月から「BSプレミアム4K」と名称変更し、「4Kならではの見応えたっぷりのスペシャルコンテンツをお届けする」と位置づける。放送サービス高度化推進協会によると、4K放送の視聴可能機器は1700万台を超えており、徐々に広がってきている。家電量販店の店頭に並ぶ大型テレビもほとんどが4K対応だ。そこで今回の再編を機にプレミアム4Kをのぞいてみるのも一策だろう。

 4K放送は、民放キー局系BSなどが取り組むが、番組内容は2Kと変わらないものがほとんどだ。高画質とはいえ、「2Kで見られるものをわざわざ4Kで見る必要がない」と、たとえ対応型テレビを購入しても4K番組を見ていない人が多い。その意味ではプレミアム4Kが一つの起爆剤になることも期待されるし、それも公共放送の役割だろう。

プレミアム4K限定の新番組ゼロ

 そのためには、高画質だけでなく、2Kとは違う斬新な番組をラインアップして「見たい!」と思わせる必要もあろう。2000年12月にBSデジタル放送が始まった時、NHKのBSハイビジョンは、「見ごたえ主義」を旗印にチャンネル独自の海外中継やライブ、ドラマなどを特番編成。レギュラーでは、2時間枠の「ハイビジョンスペシャル」でオペラから映画まで様々な番組を連打した。11年4月からBSプレミアムが始まった際も、ビートたけしが多彩なアーティストの創作の裏側に迫る「たけしアート☆ビート」や、世界各地に伝わる歌声をクローズアップする「Amazing Voice 驚異の歌声」、米国で大ヒットしたミュージカルコメディー「glee(グリー)」などを用意した。

 しかし今回、プレミアム4K限定の新番組はない。この点、NHK広報局に尋ねたところ、「既に12月を見越し、先取りする形で4月に番組改定を行っていますので、12月での変更は最小限になっています。4月に新設した番組として『体感!グレートネイチャー』『4Kで旅する世界ふれあい街歩き』『究極ガイド 2時間でまわる☆☆☆』『美の つぼ スペシャル』『岩合光昭の世界ネコ歩き 4Kスペシャル』などを新設しております」との回答があった。

 なるほど。でも、「グレートネイチャー」や「世界ふれあい街歩き」は、これまでも放送されており、4K版の新作と言われても正直、ピンとこない。できることなら工夫を凝らした4K独自番組や蔵出し映画などをレギュラー枠として見たいものだ。

値下げで財源不足、制作費にも影響

 だが、それも容易ではない。理由の一つが財源不足だ。24~26年度の経営計画案によると、受信料1割値下げの影響でこの3か年は赤字予算を組まざるを得ない。27年度に収支均衡させる予定だが、受信料収入は現在よりも年650億円減る見通しだ。収支均衡に向け、1000億円の支出削減が必要で、さらに将来に向けた重点投資分300億円を加えると、現在より1300億円の経費削減をしなければならないという。このため制作費も1割程度減らさざるを得ず、プレミアム4K限定の新番組など期待し得ないわけだ。

 もちろん、普及し始めたとはいえ、4K対応テレビを持たない家庭が多い現状では、4K限定の番組ばかり充実させるわけにいかないのかもしれない。しかし、放送法64条では、NHKの放送を受信できる受信設備があれば視聴者は受信契約義務を負う。BSの場合、衛星アンテナや対応テレビなどがあれば、たとえ今回の再編に不満があろうと、地上契約よりも割高な衛星契約の締結を断ることができない。中には「さらなる値下げ」を求める人もいるだろうが、1割値下げでも四苦八苦するのが、今のNHKの台所事情だ。

 その意味では、4Kを含めたBS番組の充実は難題中の難題ということになりそうだが、内部からは「カネがなければ知恵を出せ」との声も聞こえてくる。創意工夫の精神、テレビ 黎明れいめい 期に放送業界を引っ張ったNHKの原点は確かにそこにあったはずだ。今一度、足下を見つめ直してはどうだろうか。

情報元
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20231128-OYT1T50147/