「私人逮捕系YouTuber」逮捕相次ぐ…カネ目当てのゴロツキに“正義”を語る資格はない!

調子に乗りすぎたというべきか。「私人逮捕」「世直し」をうたうYouTuberが相次いで警視庁に逮捕された。1件は「煉獄コロアキ」を名乗り、もう1件はYouTubeチャンネル「ガッツch」を運営。いずれも痴漢や盗撮、転売ヤーを取り押さえる様子などを動画投稿サイトにアップしており、ユーザーから「応援しています」「頑張って」などと支持する投稿もみられた。しかし、自らの犯罪行為を「動画」という証拠として残した結果、自分が逮捕されるというお粗末さだった。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

「通常」「緊急」「現行犯」3種類の逮捕の違いとは

11月13日に逮捕された煉獄コロアキこと杉田一明容疑者(40)=名誉棄損(きそん)容疑=は9月19日、東京都千代田区の帝国劇場周辺で女性(18)に「お姉さん、パパ活やってるでしょ」「お金返して、8万円」などとつきまとって動画を撮影。動画投稿サイトYouTubeに女性の顔を隠さずに「転売ヤー」などの字幕を付けて投稿した疑いが持たれている。

女性が転売に関わっていた事実はなく、撮影された際に「複数人に囲まれた」と話していることから、警視庁はほかにも共犯者がいるとみて調べている。

20日に逮捕されたのは「ガッツch」を運営する今野蓮容疑者(30)と奥村路丈容疑者(28)=いずれも覚醒剤取締法違反(所持)の教唆容疑。2人は共謀して8月、インターネット掲示板で女性を装って知り合った男に、通信アプリで「覚醒剤を一緒に使いたい」などとメッセージを送信。横浜市で覚醒剤を購入し、待ち合わせ場所の新宿駅に持ってくるようそそのかした疑いが持たれている。

2人は男をおびき出し、110番通報して警察官が現行犯逮捕する様子を撮影してYouTubeに投稿していた。今野容疑者は「中島蓮」と名乗って活動し、奥村容疑者は撮影役だったとみられる。男はその後、同法違反(所持)の罪で起訴された。

実は、一般には知られていないが、逮捕には「通常逮捕」「緊急逮捕」「現行犯逮捕」の3種類がある。

  1. 通常逮捕は映画やドラマで刑事が容疑者の自宅のドアをノックし、紙(逮捕状)を差し出して手錠をはめるあの感じと思ってもらっていいだろう。刑事訴訟法では検察官、検察事務官または司法警察職員(階級が警部以上)が裁判所から令状を受け取り、容疑者を逮捕することになっている。
  2. 緊急逮捕は「死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があること」が条件で、分かりやすく言えば「重罪を犯したのを確認したのに、逮捕状を請求している間に逃げられてしまう」という時に適用される。
  3. そして今回問題となっている現行犯逮捕だが、法の条文では「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする」とある。その上で「現行犯人は(現行犯の要件を満たしていれば)何人(なんぴと)でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」とされる。これが「私人逮捕」が可能とされる法的な根拠で「常人逮捕」とも呼ばれ、警察官ではなく一般人でも逮捕できるというわけだ。

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私人逮捕系YouTuberは暴行、傷害、逮捕監禁罪の可能性も

ただ、筆者は彼らの逮捕前、動画を見て「危なっかしいな」と思っていた。というのは、彼らの行為が既に犯罪で、逆に現行犯逮捕されても仕方がないようなケースも目についていたからだ。

杉田容疑者の逮捕容疑は名誉毀損だが、刑法230条は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず…(省略)」とある。そう、「その事実の有無にかかわらず」であり、被害女性がチケットの転売行為やパパ活をしていたとしても、衆人環視のもとで罵詈(ばり)雑言を浴びせながらつきまとう行為は犯罪なのだ。

また、逮捕容疑は女性の容姿にモザイクをかけず晒(さら)した行為だが、一般の往来で「パパ活やってるでしょ」と決めつける発言は侮辱罪(同231条)=具体的な事実の摘示をしないで不特定または多数の人が見られる中で口頭や文書を問わず他者を侮辱すること=に該当する可能性がある。

では、動画では女性が逃げ惑う姿が投稿されていたが、女性が杉田容疑者に立ち止まって抗議していたらどうなっていたのか。取り押さえようとして体を触ったら、その瞬間、暴行罪(同208条)が成立し、万が一、けがでもさせようものなら傷害罪(同204条)になる可能性さえある。

実際に取り押さえてしまったら逮捕監禁罪(同220条)=不法に人を逮捕、または監禁する行為=、逮捕・監禁の結果として傷害または死亡の結果が生じた場合は、逮捕等致死傷罪(同221条)になるかもしれない。

法を悪用した金もうけに「正義」はない

一方のガッツchだが、動画は痴漢や盗撮をしたと決めつけた内容が多く「今後も信念をもってこの活動に取り組みますので応援よろしくお願いします!」「全ての性犯罪者に告ぐ ガッツch中島蓮がお前たちを駆逐する」と威勢のいい文言が並んでいるが、確たる証拠があるのかと疑問に思うようなものも含まれている。

大勢で取り囲んだり、男性に馬乗りになって押さえつけていたりするシーンなどもあり、これは暴行罪や傷害罪、逮捕監禁罪に該当するかもしれない。

本件の覚醒剤取締法違反事件だが、容疑の「そそのかした」は、その語感から「アシストしただけ」という印象を受けるかも知れないが、実は教唆犯は共犯の一種で、法定刑は犯罪を実行した正犯と同じだ。覚醒剤取締法違反罪(所持)は罰則が10年以下の懲役だから、決して軽くはない。

警視庁が今回、この事件を問題視しているのは、実際に覚醒剤を所持している人物をわなにかけおびき出すという「おとり捜査」まがいのことをしていたことだ。

「現行犯逮捕は一般人でも可能」と書いたが、捜査機関である警察や検察でもかなり限定される手法で、一般人にそんな権限があるわけがない。警察としては模倣犯が出ないように釘を刺しておくべきだという判断があったのは間違いないだろう。

煉獄コロアキもガッツchも「正義」を振りかざしてアクセス数を稼いでいたわけだが、目的はほかでもない「過激な投稿で再生回数を稼ぎ、広告収入を得るため」としか思えない。

法の理念を知らぬゴロツキが、法を悪用して金もうけをたくらむ行為に「正義」を語る資格などないのは誰の目にも明らかだろう。

情報元
https://diamond.jp/articles/-/332848