イスラエルとハマスの戦闘への注目を利用し、TikTokのライブ配信機能「TikTok LIVE」で収益を得ているティックトッカーたちがいる。この配信者たちは、今回の軍事衝突には直接の関係がないとみられる人たちだ。運営するTikTok側も、クリエイターの収益のうち最大50%を得ているという。
10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃後、TikTokの一部クリエイターがそれぞれイスラエル側とパレスチナ側に分かれ、TikTok LIVEの機能を使って「対戦」するライブ配信を始めた。勝敗を左右するのは、それぞれが5分間で集めたギフト数で、クリエイターたちはフォロワーに向かって叫びながら、高価な「ギフト」を贈るよう促していた。
これらのギフトのなかには、ひとつ数百ドルするものもあり、『WIRED』がここ数日で視聴したいくつかのライブ配信は、休憩なしで何時間も続いていた。ある対戦配信では、パレスチナ側という設定のクリエイターが72連勝したこともあった。
クリエイターはギフトを換金できるが、それは運営するTikTokが収益の大部分を取ったあとになる。
ガザ地区の人道危機が悪化の一途をたどるなか、ソーシャルメディア・プラットフォームは偽情報の拡散を許していると批判され、TikTokを含むプラットフォームは特定の視点を封殺していると非難されてきた。
そしていま、TikTokはイスラエルとパレスチナに対するユーザーの注目を利用して、利益を得ているように見える。イスラエルやパレスチナ出身ではないかもしれないクリエイターが、今起きている紛争から収入を得ることを許しているのだ。
TikTok上で繰り広げられる対戦
今回の危機への世界的な注目を利用して、利益を得ようとするクリエイターを『WIRED』は数多く発見した。なかでも、特に多くの利益を上げているように見える一組がいた。
10月中旬から複数日にわたって、パレスチナ側を“代表する”トルコ人配信者が、イスラエル側を“代表する”ギリシャ系ジョージア人の配信者と対戦配信を繰り広げていた。どちらがどちらを演じているのかを判別できるよう、それぞれが演じる側の国の国旗を画面に表示していた。
『WIRED』が視聴したすべての対戦配信に参加者していた全員が、それぞれが“代表している”国とのつながりがあるようには見えなかった。そして、戦闘によって実際に被害を受けている人々に、収益を寄付することを示唆する配信者もいなかった。
インフルエンサーが繰り広げる対戦配信は、少なくとも2016年以降にライブ配信プラットフォームで登場し始めており、特に中国でみられる。だが、多くのプラットフォームでは、参加者は対戦に勝つためにタスクを完了したり、スキルを披露したりしなければならない。一方でTikTokの配信者は、ほとんどがただ叫んでいるだけだ。
TikTokのウェブサイトでは、ライブ配信の仕組みについて触れていない。だが、対戦配信の機能はTikTokでは少なくとも21年から実装されている。
この機能は2年ほど前から利用できたにもかかわらず、あまり知られていない。同時接続者数やスタンプ、続々と流れてくるコメントが画面を埋め尽くす一方で、ふたりのクリエイターがフォロワーに多くのギフトを寄付してもらおうと叫び声を上げる。こうした様子は対戦配信になじみのない人にとって、まったく意味がわからないだろう。
こうした配信者は、危機的状況にあるイスラエル人やパレスチナ人の権利について、首尾一貫した議論を繰り広げているわけではない。口から出るのは自分たちの名前の叫び声や「Like, like, like(いいねをして)」「Follow me(フォローして)」といった絶叫である。
『WIRED』が視聴したライブ配信には、何千人もの同時接続者がいた。この記事が掲載される直前には、プッシュ通知で配信者たちが再びライブ配信を実施することが示されていた。
2人の配信者に対戦配信に関するコメントを求めたが、メッセージに返事はなかった。
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不快かつ不健全な配信
イスラエル・ハマス衝突と関連づけた対戦配信が、TikTok上で増加していることを最初に指摘したのは「Accelerationism Research Consortium」に所属し、TikTok上の誤情報を専門的に追跡するリサーチフェローであるアビー・リチャーズだ。「残虐行為を利用した金をもうけに、不快感を感じます」と、リチャーズは言う。
「ティックトッカーが“代表”しているという、“イスラエル”や“パレスチナ”それぞれの概念に対して、金を送っている人が存在しています」と、リチャーズは10月下旬にInstagramに投稿した動画で語っている。「でも、実際にもうけているのはTikTokです。クリエイターがライブ配信で得た収入のおよそ半分は、運営側に取られてしまいます。ギフティングの恩恵を得ているのはペテン師とTikTokだけです。吐き気がします」
TikTokにコメントを求めたが回答は得られなかった。
クリエイターの多くは、収入を得るためにアプリのライブ配信機能を活用しており、配信者のなかにはTikTok上で自分の生活をさらけ出しているユーザーもいる。「LIVE Match」と呼ばれる対戦配信機能は、1回5分間、ふたりのユーザーが“対戦”できる機能だが、知名度のある機能ではない。勝敗は、フォロワーから獲得した「いいね」とギフトの数で決定する。
この不思議な現象が意味するのは、ティックトッカーが“勝つ”ためには、できるだけ多くのギフトを寄付するようフォロワーを促さなくてはならないということだ。
ギフトはTikTokのアプリ内通貨である「コイン」で購入することが可能だ。コインの値段は購入する枚数によって異なるが、1ドル以下(日本では120円)で70コインを購入できる。
ギフトのなかには、「バラ」やTikTokのロゴなど少額で買えるものから、最大44,999コインもする全画面を覆うアニメーションまで存在する。TikTokで最も高価なギフトを贈るために必要なコインを購入すると、500ドル以上(約77,000円)かかることもある。
クリエイターが対戦している最中にギフトを贈ると、そのギフトは「ダイヤモンド」に変換され、クリエイターはそれを現金に換金することが可能だ。
しかし、ギフトの全額がクリエイターに渡されるわけではなく、TikTokは贈られたギフトのかなりの部分を受け取っている。TikTokは、「アプリストア、支払処理会社への手数料、および当社の規約とポリシーに基づく必要なその他の調整を差し引いた後、バーチャルアイテムからの純収入の50%をクリエイターと共有している」としている。
だが、塵も積もれば山となる。モバイル市場の動向を調査する「Data.ai」が発表した報告書によると、今年1月に人々はTikTok上で60億ドル(約8,900億円)をアプリ内で課金していたという。
対戦配信は収益を上げやすい商売でもあり、月に3万ドル(約450万円)も稼いでいる配信者もいるようだ。一方、ギフトを送る側は、それに依存しやすく、経済的・精神的な問題につながるケースもあるという。
情報元
https://wired.jp/article/tiktok-live-matches-israel-hamas-war/