違法ドラッグ闇サイト「Silk Road」運営で禁錮20年、謎だったナンバー2の正体

10年ほど前、「Silk Road」と呼ばれる、ダークウェブ上の違法ドラッグ市場が、捜査当局によって解体された。捜査を主導したFBIは、ダークマーケットのボスであるロス・ウルブリヒトをサンフランシスコの図書館で逮捕した。それから2年後、ウルブリヒトの右腕であり、「ヴァラエティー・ジョーンズ(Variety Jones)」として知られてきた素性不明の人物がタイで発見され、逮捕された。そしてSilk Road解体から10年が経ったいま、この人物がボスの後を追って連邦刑務所に収監されることになった。

ロジャー・トーマス・クラークは7月11日(米国時間)、Silk Roadの構築と運営に関わった罪で、マンハッタンの裁判所から禁錮20年を言い渡された。このクラークこそが、「ヴァラエティー・ジョーンズ(Variety Jones)」「シモン(Cimon)」「プルーラル・オヴ・モングース(Plural of Mongoose)」などのハンドルネームで知られる人物である。クラークはカナダ国籍の62歳で、残りの人生の大部分を刑務所の中で過ごすことになるだろう。

クラークが携わったSilk Roadは、匿名ユーザー同士が暗号資産を使って違法薬物やその他禁制品を売買する市場モデルとして画期的な存在だった。現在もダークウェブには、似たような市場が存在する。クラークは検察側との司法取引で罪状を認め、判決はその限度で最長の刑期となった。

シドニー・スタイン判事は判決文のなかで、クラークが「ドラッグが合法であるべきという信念を、当初の思惑から外れて、犯罪組織を物質的に支援する取り組みに変えてしまった」「当初の信念が明確な違法行為に変わっていった」と説明した。

加えてスタイン判事は、クラークがウルブリヒトの「右腕」として、「明確な意志を持って」Silk Roadの運営に携わっていたとした。「この判決は、クラークが主導した犯罪事業の巨大さを反映したものである」とスタインは語った。

クラークは裁判で、ドラッグは合法化されるべきだという政治的思想に基づいてSilk Roadに携わっていたと語った。加えて、総額数億ドルものダークウェブ上でのドラッグ取り引きについて、オフラインで行われるドラッグ取り引きよりも安全だったと主張した。

“実害を減らしている”と主張

クラークは裁判で、Silk Roadはドラッグの売買から暴力的な要素を取り除いたと主張した。Silk Roadの評価・レビューシステムは、より深刻な被害が起きうる不純物混じりのドラッグ販売を抑制していたとも語った。

「これは『ハーム・リダクション(実害を減らす)』だと自分自身に言い聞かせ、毎晩眠りについていたのです」とクラークは判事に吐露した。閑散とした傍聴席の前に立ったクラークは細身でやつれており、ダボついたカーキの衣服を身に纏っていた。「自分のことを誇りに思うと同時に、恥ずかしくも思います」

検察の論告求刑が言及したように、クラークはSilk Roadにとって“補佐官”以上の存在だった。クラークは同サイトのセキュリティーコンサルタントであり、PRアドバイザーであり、さらにはボスであるウルブリヒトに助言するコーチような存在であり、友達のような存在でもあった。

ふたりが出会ったころ、クラークは同サイト上で大麻の種子を販売していた。ウルブリヒトの日記には、クラークが「このサイト上で出会ったなかで最も意志の強い人物だ」と書き記されている。

ウルブリヒトの日記によると「彼(クラーク)はたくさんの技術的なアドバイスをくれた。サイト高速化や、サーバーの能力をより多く引き出す手助けをしてくれた」という。また「彼はSilk Roadを取り巻くコミュニティとの付き合い方についてもアドバイスをくれた。声明を出すこと、問題のある人物に対処すること、セールを開催すること、名前を変えること、ルールを取り決めること、などなど。それから、法的な対策を講じることも教えてくれた。虚偽の経歴を作成したり、遺言書を作成したり、後継者を探したりなど。彼は真の指導者だ」とも記されている。

従業員の殺害をウルブリヒトに促す

Silk Roadの歴史を語る上で特に重要な事件、クラークとウルブリヒトが暴力に頼ろうとした事件においても、クラークは重要な役割を果たした。このことは今回の判決にも大きく関係している。当時、従業員に裏切られ、ビットコインを盗まれたと考えていたウルブリヒトに、その人物を殺害すべきだと確信させたのがクラークだった。

「クソみたいな裏切り者を始末するのに、いつまで迷っている?」。ビットコイン盗難が発覚した後、クラークはウルブリヒトにこんなチャットを送っていた。逮捕後に押収されたウルブリヒトのPCにチャットログが残っていた。「おれたちが扱っているのは、でかい金と本物の悪党たちだ。あいつらはそういう世界に生きているんだよ」

ウルブリヒトが従業員の殺害に同意すると、クラークはそれが正しい判断だと告げた。「もし怖じ気づくようだったら、あんたとの関係を考え直していただろう。真剣勝負だってことがよくわかっただろ。おれは今回の決断に少しも疑問を持っていない。今晩は子羊のように眠りにつけるだろう。これからも毎晩な」とクラークは書いている。しかし、この事件は奇妙な展開を遂げる。Silk Roadを捜査する連邦捜査官たちが、その従業員が暗殺されたかのように見せかける芝居を打ったのだ。

「実害を減らす(ハーム・リダクション)」ことが目的だったというクラークの主張に対し、連邦検事補のマイケル・ネフは裁判でこれらのコメントを証拠として示し、クラークが「人間の命を軽んじている」と反論した。「(クラークにとって)ひとりの人の命を終わらせる決断も、簡単でストレスのないものであった」と、ネフは裁判官に向けて語った。

クラークは自身の供述のなかで、この嘱託殺人については触れなかった。クラークはある時点まで、自身の関与はウルブリヒトの捏造だと否認していたが、後に事実だと認めた。その代わりクラークは、自身が慈善的な目的に基づいてSilk Roadを運営していたことを強調した。

クラークの言い分だと、不純ドラッグの流通を抑制したことで、Silk Roadは何千人もの命をオーバードースから救ったとのことだ。しかし同時に、Silk Roadで手に入れたドラッグを飲みすぎて死んだ人が少なくとも6人いる、と検察に告げられると、クラークはこれを認めた。

「Silk Roadがなければこの人たちは今でも生きていたかもしれないのだろうか? おそらくはそうでしょう。しかしわたしたちは何千人もの命を救ったのです。何人かの命を奪ったとしても」とクラークは語った。

クラークは自身の行動を「トロッコ問題」にたとえて説明した。トロッコ問題とは、人間が縛り付けられている二股に分かれた線路があって、トロッコがどちらの線路を通過するか(誰が死ぬか)を決めなければならないとしたらどうするか、という倫理哲学における思考実験だ。「哲学の講義じゃありませんが」クラークは判事に向けて語った「わたしはスイッチを引いたのです」

クラークとその弁護人は弁論のなかで、クラークが過去数年間にわたってタイとニューヨークの監獄で、劣悪な環境下で留置されていたことについても強調した。弁護人は、クラークがタイの監獄で拷問や性的暴行を目撃したことでトラウマを負ったこと、そして基本的なヘルスケアを受けられなかったために、米国に送還されたときに体重が93ポンド(約42kg)しかなかったことを説明した。

また、ブルックリンのメトロポリタン拘置所での、腐敗とネグレクトについてもクラークは語った。2021年、めまいでベッドから転げ落ち、骨盤を損傷したとき、助けを呼んでも一晩中ずっと放置されて苦しんだと説明した。

スタイン判事は、クラークが何年にも及んで不当な扱いを受けて苦しんでいたことを認めつつも、クラークの刑期を「減刑するほどの説得力はない」とした。

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アイデアを誇張して語る傾向

それとは別に、クラークは新たに突飛な、そして何の証拠もない主張を展開した。Silk Roadの収益から80万ドルほどを使ってハッキングツールを購入し、ダークウェブ上で児童の性的搾取に関わる人びとを特定し、それらを英国と米国の政府に提供したというのだ。

クラークがハッキングツールの購入元として主張したのは、バンコクに拠点をおくGrugqというハンドルネームのハッカーだった。しかし、『WIRED』が取材したところ、Grugqは明確にその事実を否定した。「そんなツールを売ったことはありませんし、ましてクラークに売ることなどないでしょう」とGrugqはコメントしている。判事も裏付けのないクラークの主張を判断に組み込むことはなかったようだが、クラークは自身のコンピューター技術を米政府のために使うべきだと示唆した。

小児性愛者をハッキングしたというクラークの話は、おそらく真面目に受け取られるべきではないだろう。クラークは荒唐無稽な話を吹聴してきた。タイから送還される以前、クラークはFBIの腐敗捜査官に追われているとか、秘密の情報を提供できるなどと主張し、タイ政府に身柄の解放を求めていた。これらの主張は結局、何の裏付けも出てこなかったし、裁判で弁護側が触れることもなかった。

Silk Roadが解体される以前のウルブリヒトとのチャットにおいても、クラークはアイデアを誇張して語る傾向があった。あるときには、もしもウルブリヒトの身柄が特定されたり逮捕されたりしたときに、刑務所から救出する方法を語っていた。

「ヘリコプターのツアー会社への投資を考えてみてもいいと思う。実際、おれたちが稼いでいる金の額を考えたら、小さい国をまるごと救助に向かわせることだってできる。あんたが(刑務所の)運動場にいるときを狙って、おれの乗ったヘリコプターが素早く下降していくんだ。約束するよ」とクラークは書いている。

しかし、そのようなウルブリヒト救出作戦は実施されていない。そして恐らくは、クラークに対しても実施されないだろう。

「みんなよく見ておいてくれ」。クラークは裁判の途中、閑散とした傍聴席を向いて、ドラマチックな身振りでこう言ったことがある。「俺は殺される。たぶん、これが見納めになるぞ」

情報元
https://wired.jp/article/silk-road-variety-jones-sentencing/