東証スタンダード上場の「中小企業ホールディングス(HD)」(2023年6月に「創建エース」に社名変更)傘下の「のら猫バンク」が解散となった。
同社は2022年12月15日、月額380円の会員登録で、保護猫をシェルターから譲り受けられる、猫のサブスクリプション(定額課金)サービス「ねこホーダイ」をスタートさせた。
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サービスについて、公式webサイトにはこう説明があった。
《「猫を飼うなら一生責任を持って面倒を見る」これは当たり前のことですが、それだと高齢者や単身者は中々飼うことができません。それならその「責任」を誰かが代わりに負えばいいのではないか、そんな思いで作られた「人と猫をつなぐプラットフォーム」それが会員制サービス『ねこホーダイ』です》
会員になれば、提携シェルターの猫を審査なしで借りられ、飼えなくなれば無料で引き取ってももらえる、というシステムに「猫をもの扱いしている」「無責任だ」など、愛猫家やボランティア団体などから批判が相次ぎ、環境省も問題視。わずか2週間でサービスを停止した。
だが中小企業HDは、12月29日に発表したプレスリリースでは、サービス停止の理由を《想定を大きく上回る多くの方に会員登録を頂くこととなりました》と説明した。結局、サービスは再開されることなく、運営会社は解散に至った。
譲渡予定だった猫たちは提携先の「花の木シェルター」千葉支店にいたが、5月末までに転出し、行方もわからないと報道されてきた。猫たちはどこに行ったのか。また、サービスへの批判をどのように考えているのか。本誌は、「のら猫バンク」の取締役を務め、現在も「花の木シェルター」の代表を務める 阪田泰志氏に話を聞いた。
「猫たちはみんなこっち(愛知県名古屋市)に戻って来てますよ。都合6~7頭います。ほぼ、うちから出した子で、ほかに1頭、よその子もいたかな」
阪田氏は「殺処分ゼロ」を目指して、2014年に名古屋市にシェルターを設立し、借金を抱えながら、猫の保護活動をおこなってきた。その姿は、『ザ・ノンフィクション』や『坂上どうぶつ王国』(いずれもフジテレビ系)などにも取り上げられてきた人物だ。
一方で、「週刊女性PRIME」が、多額の寄付金を集めながら、病気の猫を病院に連れていかず、不衛生な環境で飼育していると報じるなど、運営方法に批判も少なくない(阪田代表は「週刊女性」の取材で、これらを否定している)。
「革ジャン阪田」を名乗り、積極的にサービスをPRしてきた阪田氏。批判を集めた「ねこホーダイ」の騒動について、どのように考えているのか。
「僕はコンセプトは立てましたが、ネーミングはむろん、サービス内容や、運営にはタッチしてないんです。『のら猫バンク』では正社員を数人、雇ったんですが、社員の名前や経験についても知りません。もちろん料金設定なども、運営側が決めたことです。立ち上げてすぐやめる結果となり、僕は登録会員数も把握していません」
阪田氏は「花の木シェルター」千葉支店の実態については把握していないといい、いわゆる名義貸しだった模様だ。しかし、組織名を預けて関与する以上、あまりに運営側にまかせっぱなしとの印象は免れない。
「『ねこホーダイ』は、僕が出演した『ザ・ノンフィクション』を見た、中小企業HDの当時の社長、岡本武之さんが直接、声をかけてきて、設立まではとんとん拍子に進みました。岡本氏自身も保護猫を数頭飼っており、のら猫バンクの社長も兼任し、相当、積極的でした」
阪田氏は前身の団体を含め、10年以上も保護猫活動を続け、シェルター運営とともに飼い主とのマッチングを図ってきた。花の木シェルターでは、2021年までの7年間で、保護した猫のうち、1358頭を譲渡、226頭に不妊手術を実施している。いまでも名古屋にある2つの施設で、常時150~160頭の猫が暮らす。
阪田氏は「これ以上、野良猫を増やさず、殺処分もさせない。そのためには不妊手術あるのみ」というポリシーを持つ。地元の名古屋では行政とも組んで、野良猫を捕獲(Trap)し、避妊または去勢手術を実施(Neuter)した後に元の場所に戻す(Return)「TNR活動」をおこなっているという。
また、寄附や猫カフェなどの売り上げ、ボランティア頼みの活動には限界があるとして、花の木シェルターでは譲渡の際は4万8000円、飼えなくなった猫を引き取る際も月額1万5000円と、額を決めて徴収している。引き取り手の条件もきちんと定め、猫との「お見合い」や「トライアル(仮譲渡)」を経て、正式譲渡に至るという。
シェルターの運営方針をそう説明する阪田氏だが、一方で「ねこホーダイ」には、利用者の審査すらなかった。虐待目的などで猫を借りる人間もいるかもしれない。また、次から次と借り換える利用者がいれば、環境の変化に敏感な猫にとっては、大きなストレスになることは明らかだ。
「『ねこホーダイ』は、性善説に立ったサービスのつもりでした。猫を飼いたいがいまは飼えない、という人が登録してくれて、将来の暮らしに向け検討してくれたり、コンセプトに共感してくれた人が、支援の意味合いで会員になってくれたりすることも期待しました。高齢者や独り身の飼い主が、病気をしたり、施設に入居したりして飼えなくなった場合に、猫の面倒を見られるシステム作りは急務です。『ねこホーダイ』は、その裾野を広げられると考えていました」
さる6月26日に開かれた株主総会で、岡本氏の退任が決まり、中小企業HDは祖業である建設業に力を入れる方針に転じ、のら猫バンクは解散。計画も白紙撤回となった。それでも阪田氏はこう警告する。
「現場はすでにパンク寸前。どこの施設もキャパを超えた多頭飼育で回らなくなっています。保護猫を減らす新たな方策を探らないと、マジでまずいんです。今回のサービスだって、何もやらないよりもましだとは思ってたんですが……。しかし、あのネーミングが最大の失敗でしたね」
「のら猫バンク」の清算が済めば、阪田氏は岡本氏もまじえて、正式な会見をするという。その機会を待つとしたい。
(取材&文・鈴木隆祐)