海賊版サイト、取り締まるのは「正義のハッカー」…運営者の8割を特定

漫画やアニメ、ゲームなどをネット上で違法に配信する「海賊版サイト」の被害が止まらない。出版や映像大手が加盟する「コンテンツ海外流通促進機構」(CODA、東京)が先月発表した推計によると、2022年の被害額は19年の5倍の2兆円に達する。近年、サイトの運営者は海外に移っており、現地当局が摘発する動きも出ている。(鈴木貴暁、中国総局 吉永亜希子)

閉鎖に追い込む

 「どんなに身を隠そうとしても、サイトには運営者の情報がいくつも埋もれている」。一般社団法人「日本ハッカー協会」(東京)の杉浦隆幸代表理事(48)はそう強調する。

 海賊版の対策を進めるうえで、運営者の特定は不可欠だ。しかし運営者側は日本からの接続を遮断する「ジオブロッキング」や、ネット上の住所を次々と変える「ドメインホッピング」と呼ばれる手法を使い、ネットの闇に隠れている。捜し出すことは容易ではなく、CODAは「正義のハッカー」に協力を求めた

 杉浦さんらは昨年、CODAから依頼を受け、特定作業を始めた。現在、協会所属のハッカー5人が、公開情報を分析する「オシント」を駆使して、運営者に関わる情報を調べている。特定できる割合は8割に上るという。

 複数のハッカーが集めた証拠をCODAが集約し、出版社や映像大手に代わって現地当局と協力し、海賊版サイトを閉鎖に追い込む。21年4月から始まった一連の「国際執行プロジェクト」は着実に成果を上げている。

 CODA側の告発により、中国の公安当局は今年2月、日本アニメを配信する最大規模の海賊版サイト「B9GOOD」の運営者を摘発した。同様の告発を受けたブラジル当局も今年2月、「呪術廻戦」「僕のヒーローアカデミア」など日本アニメの海賊版サイト運営者を摘発し、36サイトが閉鎖された。CODAの後藤健郎代表理事(61)は「プロジェクトの成果が実を結び始めた」と語る。

コロナで急増

 こうした動きが出ている背景には、海賊版の被害が急拡大している実情がある。高速で大容量のデータ通信が可能となったことや、コロナ禍の巣ごもり需要などが要因だ。

 CODAは、海賊版が流通したことが原因で売り上げにつながらなかった「被害額」を推計している。22年は、映像や出版、音楽、ゲームを合わせて1兆9500億円~2兆2020億円に上った。19年の前回調査の推計額は3330億円~4300億円だった。

 従来の海賊版サイトは、運営者と視聴者がともに日本国内にいることが多かった。しかし、近年では摘発を逃れるため、運営者が海外にいるケースが増えた。運営者と視聴者がともに海外在住という例も出ており、現地語に翻訳されて違法に配信されている。

 最近は、漫画はベトナム、アニメは中南米の運営者による被害が多いという。

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海外と連携

 対策には、国際連携の強化も必要だ。国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、現地当局に依頼するルートもあるが、「著作権侵害は優先順位が低い」(後藤代表理事)ため、摘発につなげることは難しいという。

 このため、CODAは21年9月、北京事務所を設立。NGO法人としての登録も行い、昨年1月から本格的な業務を始めた。先月26日には、摘発に向けて連携を強化するため、現地の著作権保護団体の「中国版権協会」との覚書も北京で交わした。

 北京事務所の朱根全代表は「中国人が運営する海賊版サイトはまだたくさんある。公安当局とも協力しながら、日本のコンテンツを守っていきたい」と話している。

作者のため 読まないで

 海賊版サイトの運営者は、サイトに広告を掲載し、閲覧数に応じて収入を得ている。撲滅するには「見ない」ことが重要だ。

 CODAは海賊版を巡る問題を理解してもらうため、全国の中学や高校で授業をする「10代のデジタルエチケット」プロジェクトを実施している。出版社などで作る海賊版対策団体「ABJ」(東京)も3月、正規版を読むように呼びかける動画をSNSに投稿し、拡散させた。

 集英社で対策に当たる伊東敦・編集総務部部長代理(58)は「漫画家の努力を損なわないためにも、海賊版で作品を読まないでほしい」と訴える。

情報元
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230502-OYT1T50035/2/