ファイル共有ソフト「Winny」の開発者・金子勇さんと弁護団の戦いを描いた映画『Winny』が公開中だ。
Winnyとは、金子さんが2002年4月から5月にかけて開発し、2ちゃんねるで公開したP2P型のファイル共有ソフトだ。P2Pとは、中央集権的なサーバを介さず、複数のコンピュータが直接データのやりとりを行う通信技術を指す。
Winnyは、映像や音声など、当時のメールやネットでは共有が難しかった大容量ファイルをやりとりするために開発されたもので、技術そのものに違法性はない。だが、Winnyにアップロードされたファイルの中には著作権違反のものも多く、金子さんは著作権法違反ほう助の疑いで逮捕された。“殺人に使われたナイフを作った職人が逮捕される”という事態に、裁判ではその正当性が争われた。
金子さんの逮捕によって、日本のP2P技術は大きく後れを取ったと言われている。だが、そう悔やんで終わらせて、本当にいいのだろうか。
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金子さんは、2004年から2011年まで7年半続いた裁判の間にも、新たな挑戦を始めていた。2005年にWinny弁護団の弁護士・壇俊光さんらと設立したP2P技術のベンチャー企業「Skeed」(スキード)もその一つだ。エンジニア採用第一号は、Winny裁判の傍聴ブログを書いていたプログラマーの北林巧巳さん。壇さんが支援者の集会でスカウトしたという。
2006年8月に発表した「SkeedCast 1」は、Winnyの技術をベースとした圧倒的な送受信能力に、デジタル著作権管理機能(DRM)を組み合わせ、高パフォーマンス、高セキュリティを実現したP2P型コンテンツ配信プラットフォームだ。
Winnyとの大きな違いは、管理機能がついたこと。これにより、管理者は流通経路やコンテンツを監視し、公開されたファイルを消去できるようになった。ファイルのアップロードができるのは配信事業者の端末に限られ、エンドユーザーはダウンロードしかできない。そのため、うっかりミスの流出や悪意ある公開も防げる。つまり、SkeedCast 1は、Winnyが指摘されてきた問題を解決した一つの集大成ともいえる。
とはいえ、このわずか5カ月前、当時の政府は、Winnyを経由して広がった暴露型ウイルス「Antinny」の対策として、Winnyを使わないよう呼びかけていた。世間的には少なからずいわくつきの技術をベースに、SkeedCastを開発した動機は何だったのだろうか。
「SkeedCast 2」から開発に加わった飯澤徹平さんは、たった一言、「面白いからです」。
「Winnyのコードは、かなり高速に書かれたものです。それを重箱の隅をつつくように観察したのですが、完成度が高く、プログラマーから見れば非常に魅力的でした。金子さん自体が面白かったというのもあります。酒の席には顔を出すのに全く飲まない。その代わり、みんなのデザートを食べてしまうほど、甘いものが大好きでした」
2009年11月には、SkeedCast 2に実装された不正コンテンツ流通防止技術で特許を取得するに至る。
弁護士の壇さんが、SkeedCastに込められた金子さんのアイデアを教えてくれた。
「SkeedCastが、Winnyと違ってサーバ併存型なのは、『100のどうでもいいノード(端末)より、1の優秀なノードがネットワークの効率化に資する』という金子さんの発言がきっかけです。SkeedCastには、随所にWinnyのノウハウが生かされています」
映画で気になるシーンがあった。金子さんは、Winnyの問題を解決するアイデアを思い浮かべながらも、脆弱性の修正や機能追加ができずに葛藤していた。多くのユーザーが利用するサービス、かつ、緊急度の高い脆弱性であっても、裁判中はプログラムを修正できないものなのだろうか。壇さんに聞いた。
「警察の主張や裁判所の理屈を考えると、どんな意図であれ、プログラムを修正することで、新たなほう助が成立する可能性が高かったのです。また、一審の間は証拠隠滅とみなされ、保釈が取り消される可能性もありました。というわけで、ユーザーの多さや緊急度にかかわらず、修正は難しかったのです。実は、法廷で検察に対して、『脆弱性の修正のみ施したバージョンを公開することだけは罪に問わないとすることはできないか』と伝えたのですが、検察からは、そのような要望には応じられないと断られているのです」
情報元
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/30/news149.html