テレビ離れが叫ばれて久しい。しかし、これはある面で誤っている。正確には「放送波離れ」とすべきだろう。確かにハードウェアとしてのテレビは、コロナ特需の反動減で苦戦を強いられている。この1月の販売前年比も、台数89.3%、金額90.6%と前年割れだ。しかし、1割前後のマイナスで踏ん張っている。テレビはまだなんとか売れているのだ。変化が生じているのは、そのテレビで見るコンテンツ。インターネット接続に対応するテレビの販売台数構成比は、1月現在で78.5%。昨年1月に比べ5ポイント拡大した。ほぼ8割のテレビでネットコンテンツを楽しめる。テレビ画面に映っているのは放送ではなく通信。ストリーミングに主流が移りつつあるのではないか、というのが、いわゆる「テレビ離れ」の正体だ。
放送波離れの影響をモロに受けている製品がある。レコーダーだ。BDやHDDに放送波コンテンツを録画し時間差で視聴したり、BDに保存するなどしてライブラリー化するための機器。このレコーダーの販売前年比が台数・金額ともに、21年3月から22カ月連続で前年を割れている。足元では昨年6月に台数64.7%、金額67.8%と大幅なマイナスに落ち込んでいた。秋以降徐々に回復しつつあったが、この年末商戦が不発。1月には台数78.1%、金額78.6%と、再びマイナス幅を広げ始めている。コロナ特需の反動減から回復し始めるカテゴリーが多い中、レコーダーは置いてけぼり状態だ。
放送波コンテンツを録画する機器は、ビデオデッキから始まり、DVDレコーダー、HDDレコーダー、BDレコーダーなどへと進化してきた。これらの機器は、いずれも放送波のコンテンツを視聴することが前提だ。肝心の放送波視聴そのものが減ってくれば、レコーダーの需要も当然減衰する。その上、TVerに代表されるように放送事業者自らが、時間差視聴の環境をネット経由で提供するとなれば、なおさらだ。そもそも、テレビ自体にも録画機能がある。HDDをつなぎさえすれば録画はできてしまう。録画機能付きテレビの販売台数構成比は9割を超えている。放送波コンテンツ視聴の減少、ネットでの見逃し配信の普及、録画機能付きテレビの拡大と、三重苦にあえいでいるのがレコーダー。売り上げの回復はなかなか困難な仕事だ。
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現在レコーダーのトップシェアを握るのがパナソニックだ。テレビやカメラでは低迷しているものの、レコーダーではダントツ。年間トップシェアメーカーを表彰するBCN AWARDを、2012年から2023年まで12年連続で受賞し続けている。製品の特徴はネットワーク。スマートフォン(スマホ)で本体に保存した番組や音楽、写真などを外出先から楽しめたり、共有できたりする機能が秀逸だ。いち早く放送波録画機に付加価値をつけ、家庭内サーバーとしての機能を充実させてきたことが奏功している。さすがのパナソニックも、昨年夏ごろまでは前年比で大きなマイナスに甘んじていた。しかし、年末商戦以降前年並み水準は確保できるようになってきた。この1月は販売台数は前年比で100.0%ながらシェアは39.6%。昨年1月比でさらに6.3ポイント拡大させた。
身近にある「画面」は、スマートウォッチからスマートフォン、タブレット、PC、テレビと、グラデーションを形成している。TPOに応じて、使用するディバイスを使い分ける、というのが、現代人の動画コンテンツとの付き合い方だ。放送波の視聴がさらに減っても、動画を視聴できる大きなディスプレイとしてのテレビは残る。大画面・高画質という武器もある。問題はレコーダーだ。前述した三重苦に加え、レコーダー市場そのものが成立しているのはほぼ日本のみ、という特殊事情もある。海外では再放送なども多く、そもそも放送波を録画するニーズがほとんどないためだ。一方で、日常的に接する動画コンテンツの数そのものは爆発的に増えている。例えば、溢れる動画をシームレスに整理する機器や機能にはニーズがありそうだ。レコーダーは、新たな存在意義を見つける必要に迫られている。(BCN・道越一郎)
情報元
https://www.bcnretail.com/market/detail/20230219_316988.html