新年早々、ゲームファンにとってはうれしいニュースが報じられた。品薄の状態が続いていた家庭用ゲーム機「PlayStation 5(プレイステーション5)」(以下、PS5)の出荷台数が、2022年12月期は「過去最高となった」という。ソニーがアメリカ・ラスベガスで開催中の家電やデジタル技術の見本市「CES 2023」の中で発表した。さらに「今後、品薄の状態が徐々に改善していく」とのことだ。
半導体の供給が盛り返している? 課題も……
これまでPS5は、新型コロナウイルス蔓延によってサプライチェーン(供給網)が混乱するなどして半導体が不足したことで、品薄状態が続いていた。
コロナ禍によって、半導体不足が深刻になったのはよく知られている。行動制限などが生産に影響を及ぼし、近年のデジタル機器や自動車などによる需要増でどんどん半導体が足りなくなった。PS5などの電子機器は、もろにその影響を受けた。
ただ最近になって新型コロナウイルスとの付き合い方が変わってきたことで、経済活動が再開し、半導体供給がまた盛り返しているのだ。
もっとも、その状況は消費者にとってはいい話だが、半導体メーカーや関連企業などにとっては頭を悩ます状況になっている。
私たちの生活になくてはならないデジタル化した機器などは、半導体なくしては機能しない。だが日常生活に不可欠となっている「半導体」という言葉はニュースなどでよく耳にするが、半導体そのものや、それを取り巻く環境についてはよく分からないという声をよく耳にする。
そこでまず、できる限り分かりやすく半導体について説明したい。
「半導体」とは? 大きく4種類に分けられる
半導体を語る際にまず大事なことは、その種類だ。半導体には、大きく分けると4つの種類がある。まずは高度な演習を行う「ロジック半導体」。そして、データの記憶を行う「メモリ半導体」、電気信号を制御する「アナログ半導体」、そして電力の制御を行う「パワー半導体」だ。
そして高い技術力で微細化が進むロジック半導体などを製造するのには、3つの業態がある。まずは、半導体の設計から製造まで全てを行う「垂直統合型(IDM)」だ。そして、半導体の設計のみを行って製造そのものは行わない「ファブレス」と呼ばれる業態がある。逆に、設計は行わずに受託製造を専門にしているのは「ファウンドリ」と呼ばれる。
2021年、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)を熊本県に誘致することになったとして日本で大きく報じられたが、このTSMCは世界最大のファウンドリ企業だ。また、世界でトップクラスの半導体シェアを誇るのはアメリカのインテルで、設計も製造も両方を行っている。
世界における日本の半導体メーカー
半導体メーカーのシェアランキングを見ると、日本企業を目にすることはない。とはいえ、実は日本の半導体関連企業は、半導体製造には欠かせない大きな役割を担っている。例えば、半導体の基板となる素材のシリコンウエハーは、日本企業2社で世界シェアの約6割を占めており、その高い品質が半導体製造を支えている。
また半導体を製造するのに必要な製造装置では、日本企業のシェアが3割ほどになっている。ちなみに、非常に高い技術力が求められる半導体製造装置では、アメリカとオランダ、そして日本の企業が世界シェアのほとんどを占めている。
そんな半導体は、今や世界の地政学的にも重要な産業となっている。台湾のTSMCはファウンドリ企業として世界でも重要な存在になっており、同社なしには、iPhoneなどの先端デジタル機器は製造できないほどだ。
しかし、世界情勢の専門家らの間では現在、中国が台湾に侵攻するのではないかとの懸念が出ており、もし台湾有事が起きてTSMCなど台湾の半導体企業の動きが停止するようなことがあれば、世界は大混乱に陥ることになる。
米国半導体工業会(SIA)は、「TSMCなど台湾メーカーが世界の最先端半導体の9割」に関わっており、台湾有事で「台湾の半導体産業が1年間停止すると世界で4900億ドルの損失になる」と指摘している。
トヨタの首位脱落も半導体の影響が
またこんなニュースも報じられている。2022年、アメリカでは根強い人気を誇るトヨタの自動車が、販売台数でアメリカの自動車メーカーのGM(ゼネラルモーターズ)に抜かれたという。敗因は、自動車で使う半導体が不足する中で、GMは半導体を確実に確保していたからだという。国際的なビジネスにおける競争でも、半導体に絡む動向が多大な影響を与えるのだ。
ところが最近になって、半導体の需要が減りつつある。コロナ禍で企業は半導体不足を恐れて多くを仕入れて積み上げていたこともあって、今、半導体の需要が下落しつつあり、半導体メーカーなどはそれを受けて今後の動きに頭を悩ませているという。
半導体メーカーや関連企業が喜べない理由
半導体の世界には、「シリコン(半導体)サイクル」と呼ばれるビジネスの流れがある。これは、半導体業界で、成長局面と後退局面が3~4年間隔で交互に訪れ、浮き沈みが起きる現象を指す。そして、そのサイクルで、2023年は後退局面に入ると予想されており、半導体メーカーも関連企業も、ここまでの需要増や、これからコロナ後の経済が活性化する中で需要が戻るのではないかとの予測もあり、この時点で供給を増やすための工場拡大などの設備投資を行うかどうかで難しい選択を迫られている。
先日、筆者が最近話を聞いた日本の半導体部品メーカーの経営者は、このシリコンサイクルと、今後のIoTなどの電子機器などの需要増の予測の中で、工場を拡大するかどうかで悩んでいた。その投資額も、優に億を超えるようなかなりの高額になるからだ。
今後、冒頭で触れたPS5のような商品では半導体不足が解消されてさらなる販売台数の増加が期待できるとのことで、消費者にとっては喜ばしいことだ。だがコロナ禍やアメリカ・中国間の経済摩擦などで翻弄(ほんろう)される半導体メーカーや関連企業は、2023年からビジネスにおいて難しい局面に入る可能性があるのだ。