イーロン・マスクによるツイッターの買収は始まりからして行き当たりばったりで、いまも混乱が続いている。マスクによる最初の変更によってTwitterの社会的な序列が入り乱れることになるが、いかにもという事態と言っていい。マスクが手綱を握った2022年10月下旬、Twitterユーザーの認証プロセスを廃止する計画が実行に移されるというニュースが流れた。青色のチェックマークで示される「認証バッジ」によって、ユーザーが本人であることを証明できる仕組みのことだ。新たな方針では、認証バッジはツイッターが米国で提供している有料サービス「Twitter Blue」の一部になり、月額料金を支払う必要がある。この仕組みが導入されると、現時点で認証バッジを保有しているアカウントは90日以内に料金を支払わなければバッジを失う。この大刷新案は、Twitterのヘビーユーザーたちの受けはよくない。例えば作家のスティーヴン・キングは、認証に金を払うくらいなら「エンロンのように消えてやる」とツイートした。それでもマスクを制止できないようだ。青いバッジの終わりが、もうすぐやってくる。
認証バッジの価値
有料モデルへの移行は、認証の本来の意義を損ねてしまう。ツイッターは09年、メジャーリーグのセントルイス・カージナルスのトニー・ラルーサ監督が起こした訴訟への対応として青いチェックの認証バッジの仕組みを導入し、なりすましの抑制に取り組んでいることを示した(ラルーサは、誰かが自分のふりをしてジョークを飛ばしているのは迷惑だと、いら立っていた)。
認証バッジの付与は、セレブから政治家、多国籍企業、政府機関に至るまで、著名な人物や組織がTwitterを心地よく使い続けられるようにするための方法だった。初期の認証済みアカウントには、米疾病管理予防センターやキム・カーダシアンなどが含まれる。
メディアは常に認証バッジを好んできた。情報源に語らせようするジャーナリストや、記事に目を向けさせようとするオーディエンス開発チームにとって、認証済みアカウントを求めることは理にかなっている。認証済みアカウントなら、きちんと審査された人物のように見える。それにジャーナリストのフォロワーは認証バッジのおかげで、自分がシェアした記事はでっち上げではなく、“本物”の新聞記事であると確信をもつことができる。
ところが、認証バッジのシステムは詐欺や嘘、その他の誤情報に対する万能薬にはならなかった。
Twitterのコンテンツモデレーションの問題には長い歴史があり、詳しい報告がされている。誰がなぜ認証するのかを決定するために、ツイッターは長年にわたり多くの誤りを犯してもいる。だが、Twitterが情報共有のための「街の広場」として機能する上で、認証バッジは有用だった。
FacebookやTikTokなど、ほかのすべての主要なソーシャルメディアが認証バッジのアイデアを流用したことには理由がある。認証バッジは少なくとも、そこそこ役立っているのだ。
認証バッジがさまざまなプラットフォームに広がった理由は、もうひとつある。認証バッジは「重要な存在」であるという感覚を人々に与える。誰がVIPルームに陣取っているのかを、世界に向けて発信してもいる(これはほかのソーシャルメディアにコピーされたもうひとつの理由だ。どこもベルベットのロープが欲しかったのである)。
マスクは認証バッジを、高級腕時計やレアなスニーカーのデジタルな同等物とみなしているようだ。なぜそれに課金しないのか? 高級アクセサリーと考えれば、この将来の“影響税”は十分に理にかなったものに見える。
有料モデルが破壊する“幻想”
ところが、認証バッジを「カッコよく見せるために購入できるもの」と捉えると、その魅力を誤認していることになる。認証バッジを購入可能なわかりやすいステータスシンボルにおとしめてしまうと、その本来の機能が損なわれ、ばかげたものではない正当な所持理由が消え去ってしまうのだ。
このため誰でも認証バッジを購入できるようになれば、認証の側面が弱まる。このチェックマークが影響力を授けるというばかげた考えしか残らないことになるが、ますます怪しげな提案と言えよう。
要するに、“VIPルーム”とは虚栄心の強いやからや、つまらない連中がたむろする場所なのだ。トランプ時代には「認証バッジ」は使い勝手のいい侮蔑語になった。誰かを「認証バッジ」と呼ぶことは、その人物がごますりやエリート意識のかたまり、やぼ、太鼓持ちであることを意味したのである。
成功したセレブや多国籍企業が、でっち上げに悩まされないように認証を受けることは明らかだ。しかし、その他の人々はどうだろうか。中堅の投稿者やジャーナリスト、専門家、学識をひけらかすような連中、ポッドキャスト配信者たちにとって、「詐称している」というレッテルを避けるためだけに認証バッジを所持しているという主張は、流行を追いかけまくるハイプビーストが冬に暖まることだけが理由で「Supreme」ブランドの薪を購入したと主張することと同じくらい信じがたい。
ベルベットのロープの向こう側に座ることを楽しんでいる人たちは存在した。ベルベットのロープの向こう側にいるのは実用的な目的からだ、と主張することを楽しんでもいた。有料モデルは、この幻想を破壊する。
ある時代の終焉
この拡張版のTwitter Blueに金を出すユーザー層も、きっとTwitterには存在する。この変更が実施されても、たちまちTwitterがゴーストタウンになることはないだろう。
だが、認証を購入する人は、現時点で認証を受けている人とあまり重複しないのではないだろうか。起業家が増え、モノを売る人たちが殺到することになる。
詐欺師が詐欺を働くことも容易になるだろう。アカウントの認証を一人ひとり徹底的に審査するスタッフをツイッターが用意したところで、詐欺の意思をもつ人は正当そうな情報を提出し、いったん認証を受けたらプロフィールを変更して人々をだますことができる。認証バッジの終わりは、マスクがツイッターのオフィスに出勤した初日以上に、ある時代の終焉を告げることになるはずだ。
認めざるをえないが、ここで説明したようなばかげた理由で、自分のアカウントの小さな認証バッジを気に入っている。どこかの誰かが自分のことを重要な人物であると判断してくれたかのように、少し特別な気持ちになるからだ。
とはいえ、認証バッジを好むことがより大きな性格の欠陥の一部であることは、いつも理解している(見ず知らずの人の認定を渇望しているということでもある)。認証に金を払うくらいなら、テスラ車を運転して火山に突っ込んだほうがましだとさえ思う。あまりに恥ずかしいことだからだ。
マスクは最近のツイートで、認証は「領主と農民」のシステムであると説明し、この計画を擁護している。だが、これはプロレタリアート(労働者階級)が貴族階級を打倒する話ではない。短気な新しい王がすべての称号を剥奪し、自分のイメージに沿うかたちで新たな“地主階級”をつくり出そうと税金を要求しているのだ。
情報元
https://wired.jp/article/twitter-elon-musk-verification/