かつてテレビのホラー番組といえば、たいして怖くないものが当たり前だった。映画『スクービー・ドゥー』や『トワイライト・ゾーン』のように、せいぜい「PG指定」くらいだったのである。これらの番組は面白くはあったが、すべてホラーとは少し距離を置いていた。まるで、ホラーを恥ずべきサブジャンルとみなしているかのようだったのだ。いまではストリーミング配信によって、ホラー番組にも映画と同じくらい不気味でゾッとするものがある。それらの番組はSFやミステリーの鎧をいくらか脱ぎ捨て、ハロウィンの夜に没頭するにふさわしい、恥じる必要のない完全に大人向けの血みどろの作品になっているのだ。以下に、そんなお気に入りの作品の一部を紹介しよう。
ストレンジャー・シングス 未知の世界
X世代やミレニアル世代が子どものころに大好きだった番組や映画の精神を引き継ぐSFドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」は、ホラーのお約束をノスタルジックな輝きと共に提供してくれる。第4シーズン(これまでで最高だ)は80年代ホラーの雰囲気を強めており、悪役のヴェクナが肉々しい触手を被害者の夢の中に伸ばし、人々が「最も恐れていること」を利用する。このドラマはウェス・クレイヴンの『エルム街の悪夢』シリーズへのオマージュを認めており、フレディ・クルーガー(ロバート・イングランド)自身がヴェクナの犠牲者ヴィクター・クリールとして登場する。
キャッスルロック
題名になっているこの(いろいろな意味で)陰鬱な町・キャッスルロックは、スティーヴン・キング作品の登場人物の巣窟のような場所である。「キャッスルロック」はファンにとって参照ネタの宝庫だが、独立した魅力的な物語としてもよくできている。シーズン1ではショーシャンクの謎の囚人に焦点が当てられ、シーズン2では若き日のアニー・ウィルクス(映画『ミザリー』の前の時代)を紹介している。もし誰かがキングのテーマパークをつくったとしたら、きっとキャッスルロックのようなものになるだろう。このメイン州の架空の町は『デッドゾーン』で初めて登場し、『ニードフル・シングス』の舞台になるなど長年にわたってしつこいほどキング作品に繰り返し登場してきた。このドラマでは、キャッスルロックの町が独自の物語を手に入れたのである。
アーカイブ81
古いビデオテープを修復する仕事を依頼されたアーキビストのダン(マムドゥ・アチー)は、やがてロウアー・マンハッタンの集合住宅で悪魔的なカルト集団の調査をしていた女性・メロディ(ディナ・シハビ)の仕事にのめりこんでいく──。この閉所恐怖症を引き起こしそうなドラマ「アーカイブ81」は高まる恐怖感に満ちており、それを大きく支えているのがアチーの素晴らしい演技だ。残念ながらシーズン1で打ち切られてしまったが、この物語をさらに掘り下げて楽しみたい場合は、番組の元になったポッドキャストを聴くことができる。
ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス
ドラマ「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」のストーリーの中心人物は、超常現象に取り憑かれた5人の成人の兄弟姉妹である。5人はこの超常現象のせいで、数年前に家族で暮らしていた屋敷から逃げ出すことになったのだ。シャーリイ・ジャクスンのゴシックホラー小説『丘の屋敷』を大まかなベースとするこの不気味な物語を、『ドクター・スリープ』のマイク・フラナガンが巧みに演出し、カーラ・グギーノ、ティモシー・ハットン、ヴィクトリア・ペドレッティら強力なキャストが脇を固めている。背筋が凍るような映像が満載の複雑で恐ろしい家族ドラマとなっており、物語はゾッとするようなクライマックスへと発展していく。この作品を楽しめるなら、フラナガンが手がけたドラマ「真夜中のミサ」も一見の価値がある。
死霊のはらわた リターンズ
何年も前から噂されていた、映画『死霊のはらわた』ファン待望のドラマ「死霊のはらわた リターンズ」がついに実現した。主演のブルース・キャンベルと監督のサム・ライミが再び手を組み、究極のホラー・アンチヒーローを蘇らせたのだ。キャンベルは、冗談好きでおバカなアッシュを演じるために生まれてきたような男で、チェーンソーとほうきの柄を手に人類を救うため、死霊や悪魔のなかに分け入って行く。ライミは第1話の監督、キャンベルは全編にわたって主演を務めており、最高のドタバタ血みどろ劇が展開される。脇役陣との相性も抜群で、ルーシー・ローレスの楽しい演技も見られる。熱狂的なアクションはほとんど笑いを誘う一方で、うんざりするほど血みどろの演出はこれまでで最高に印象的だ。いや、最低の印象かもしれない。
ハンニバル
『羊たちの沈黙』の数年前を舞台にした独特の雰囲気をもつドラマ「ハンニバル」は、FBI特別捜査官のウィル・グレアムがハンニバル・レクターを追い詰めながらも、正気を保とうとする姿を追う。ブライアン・フラー監督による血まみれのこのドラマは、あふれる緊張感と印象的な映像、没頭を誘うアンビエント音楽によって、映画のようにゴージャスな作品に仕上がっている。だが、この番組を必見の作品にしているのは、カリスマから人食いへと変わっていくマッツ・ミケルセンの曲劇のような演技である。ジリアン・アンダーソンやローレンス・フィッシュバーンなど、脇役陣も悪くない。
アメリカン・ホラー・ストーリー
短編シリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」には、個人的に「好き」と「嫌い」が入り混じった感情を抱いている。だが、ジェシカ・ラングをはじめとする豪華キャストはもちろん、10回にもわたり古典的なホラーシナリオが自己完結的に展開されるシーズンが続いているのだから、ここで紹介するのも当然だろう。個人的な感想としては、第2シーズンの精神科病棟で早々にピークを迎え、それ以降のシーズンは当たり外れが大きかった。お約束を見つけて楽しむホラーファンにとっては面白く、わざとらしいスリリングな場面が次々に出てくるが、特に現実の歴史と結びつけようとするときには軽薄で無理やりな感じがすることもある。くだらないと思いつつも楽しんでしまう作品である。「アメリカン・ホラー・ストーリー」を楽しめたなら、エマ・ロバーツが憎たらしい意地悪娘役、ジェイミー・リー・カーティスが学部長役を演じる、女子学生社交クラブが舞台のホラー作品「スクリーム・クイーンズ」もチェックしたい。
From(日本未公開)
アメリカ中部のこの小さな町の住人たちは、自分たちが町から出られないことに気づく。そして日が暮れると、邪悪な何かが彼らを狩るために姿を現すのだ。この遅れて人気が出てきた不気味な作品が、どこに向かうのかはまだわからない。だが、その薄気味悪さは十分に一見の価値がある。住民たちを団結させようと奮闘するボイド保安官役のハロルド・ペリノーの感動的な演技が、この作品の土台になっている。シーズン2で彼らがどうなるのか楽しみだ。
ベイツ・モーテル
「ベイツ・モーテル」は、映画『サイコ』のずっと前の時代を舞台とするホラー作品だ。まだ若者のノーマン・ベイツが母親と一緒にオレゴン州の町にやって来て、荒れ果てたモーテルを修繕する。ふたりは新しい生活を始めようと懸命に努力するものの、すべてに見放されているように見えるのだ。ノーマンは必死に精神の健康を保とうとするが、あっという間にほころびが見え始める。アンソニー・パーキンスには太刀打ちできないものの、フレディ・ハイモアの演技は若き日のノーマンとして説得力があり、ヴェラ・ファーミガは母親のノーマを見事に演じている。ふたりの関係性が、このサスペンスに満ちた番組の中核をなす。ここに挙げた多くの作品とは異なり、「ベイツ・モーテル」は5シーズンで満足のいく結末を迎えている。
マリアンヌ -呪われた物語-
有名なホラー作家が幼なじみの死によって故郷に呼び戻され、長年にわたって悪夢に現れる悪霊と対峙しなければならなくなる──。このフランスのドラマ「マリアンヌ -呪われた物語-」は、不吉な雰囲気といくつかの恐ろしげな場面で強烈なスタートを見せる。おなじみのホラーのお約束を取り入れながらもスタイリッシュで洗練されており、ちょっとしたユーモアもある。魔術色を強めていく展開も、古い海辺の町の設定と完璧にマッチしている。マダム・ダウジェロン役のミレイユ・エルプストメイェーによるまさにゾッとする演技が、このシリーズを支えている。最後のほうで少し迷走したが、それでも打ち切られるようなことはなかった。
ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路
アティカス・フリーマンは父親を探すために、1950年代の米国を縦断する旅に出る。だが、この黒人青年を待ち受ける恐怖は人種差別を超え、ラヴクラフトの歪んだ想像の世界にまで及ぶ──。美しく作り込まれ大胆な破壊性をもつ「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」は、人種差別という米国の現実の恐怖とラヴクラフト的なカルトやモンスターを、どちらも影からわたしたちをおびえさせるものとして密接に結びつけている。残念ながら亡くなってしまったマイケル・K・ウィリアムズと、素晴らしい演技のウンミ・モサクが、一流のキャストのなかでも傑出している。
アウトサイダー
オクラホマ州の小さな町の森で、切り刻まれた少年の死体が発見される。犯人は明らかだと刑事たちは考えるが、完璧なアリバイが捜査を混乱させる──。「アウトサイダー」の原作はスティーブン・キングの小説だが、そのような感じがしない。代わりに最初はスカンジナビアの犯罪ドラマのような印象を受け、徐々にゆっくりとしたペースで苦痛なほど恐怖感が募っていく。ベン・メンデルソーンが、この陰鬱さを乗り越えさせてくれる。シンシア・エリヴォ、パディ・コンシダイン、ジェイソン・ベイトマン(数話の監督も務める)も確かな演技を見せている。ほかの刑事モノ番組に飢えているキングファンには、引退して弱りきった刑事役のブレンダン・グリーソンがサイコパスの殺人鬼を追う「ミスター・メルセデス」もおすすめだ。