「国葬」中止を求める脅迫メールにも利用か? 匿名通信システム「Tor(トーア)」とは

安倍晋三元総理の「国葬」開催を巡り、全国の自治体などには中止を求める脅迫メールが届いているという。例えば、滋賀県草津市には7月、こんな物騒なメールが届いている。
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「9月27日に開催される安倍晋三元総理の国葬を中止するよう強く求める。中止にならなければ、国葬会場である日本武道館に小中学校から盗んだ濃硫酸等をまく。そして、全国の子供を海外製スタンガンで気絶させたうえで誘拐する。誘拐した子供に高性能爆弾をくくりつけ、全国の公共交通機関や商業施設など人が集まりそう場所に特攻させる。自治体の役所と施設に自動ホスゲン散布機を設置しておく」

さらにここ最近、国葬とは別で、全国各地の自治体に子どもを誘拐するといった脅迫メールが継続して届いている。東京都目黒区の公式サイトによれば、「今年5月下旬ころから、全国の自治体に対して子どもの誘拐を予告するメールが相次いで送られています。区においても6月22日、25日、30日、7月10日に同様のメールが届いており、7月20日にもメールが送られてきました」という。

現在のところ、幸いなことに実際の被害は出ていない。ただ、これらは立派な脅迫事件だ。そもそも電子メールや自治体の問い合わせフォームなどから脅迫が来ているのであれば、送信元をたどれば送信者の割り出しもそう難しくはないはずだ。しかし、現時点では犯人が検挙されたという話は聞こえてこない。

そう考えると、おそらく犯人は送信元が突き止められないようにしている可能性がある。警察関係者に取材すると、これらの脅迫メールは「今あちこちで利用できる公共のWi-Fiなどを使って送っているケースや、海外のサーバを経由している場合も多い」と言う。さらに、「Tor(トーア)を使って脅迫を送ってきているケースもある」とも指摘する。

「Tor(トーア)」とは

トーアとは、匿名で利用できるインターネットの通信システムだ。世界的によく知られているトーアは、犯罪の温床になっているとして批判されることも多い。

トーアは、専用ブラウザを使ってインターネットに接続することで匿名通信を可能にしている。トーアブラウザは公式サイトから無料でダウンロードでき、ある程度の英語が理解できれば誰でもすぐに利用できる。

通常、インターネットに接続されているパソコンには、全てにIPアドレスと呼ばれる番号(住所のようなもの)が振り分けられている。インターネットのサイト側は、どのIPアドレスがサイトに接続してきているのか、またどのIPアドレスから電子メールが送られたかなども調べれば分かる仕組みになっている。ユーザーがWebサイトに接続すると、サイト側にはIPアドレスのログ(記録)が残る。

脅迫メールやメッセージであれば、そうしたデータなどから、どこから送信されたのかがある程度分かる。ところが、トーアのブラウザを経由すれば、誰がアクセスしているのかが分からなくなる

トーアの仕組みとは? 使い方は2つ

その仕組みはこうだ。トーアに接続すると、意図的に世界中にあるいくつもの接続先(パソコン)を暗号化しながら数珠つなぎに経由していく。そして最後(出口)のパソコンから一般のインターネットサイトに接続すれば、実際とは違うIPアドレスから接続していることにできる。つまり、誰が接続しているのかは分からなくなる。

こうした特徴により、トーアには2通りの使い方がある。1つは、トーアのブラウザを使って匿名のまま、私たちが普段使うインターネットのサイトなどに接続する方法だ。そうすれば、サイトの運営者や、冒頭のケースであれば、自治体などは誰がサイトにアクセスしているのかが分からなくなる。

もう1つの使い方は、トーアのブラウザだけでアクセスできる闇サイトなどへアクセスすること。いわゆる、ダーク(闇)ウェブと呼ばれる空間だ。そこでは、違法な製品が普通に売買され、サイバー攻撃で奪われた個人情報などもダークウェブ内の闇の掲示板などで売られている。誰がどこにアクセスしているかはもちろん分からないし、誰が闇サイトを運営しているのかもほぼ分からない。

もともとトーアは、アメリカのワシントンDCにある米海軍研究試験所(NRL)が、インターネットなどを使って秘密裏に諜報(ちょうほう)活動や捜査などをする目的で研究開発を進めた技術だ。

その後、技術は米軍の研究所から民間に引き継がれ、現在では非営利団体のプロジェクトとして運営されている。匿名の通信を確保するトーアは、強権的な国家で検閲をかいくぐるために使われ、独裁国家の反政府活動家らが当局の監視を逃れてコミュニケーションを取ったり、情報収集をしたりするのに重宝されてきた。2010年に始まった中東の民主化運動「アラブの春」でも、民主活動家たちを裏で支えたのは、トーアなどの匿名ネットワークだった。

トーアの運営に関わる人たちが信じるのは

こうした使い方があるから、トーアを当局が潰す、というようなことにはなっていない。犯罪が横行する空間なら取り壊せ、という単純な話ではないのである。

筆者は以前、米マサチューセッツ州のケンブリッジ市にオフィスを置いていたトーアの本部を取材したことがある。女性の権利向上を訴える組織、YWCA(キリスト教女子青年会)の支部のビルで間借りをしていた。今では、本拠地はワシントン州に移っている。運営に関わる人たちは、人権問題などで匿名通信の必要性を信じ、活動していた

それが、ダークウェブとして悪用され、犯罪の温床とも言われているのである。その二面性を持つ世界を存在させているのが、トーアのシステムなのである。

冒頭の脅迫事件のように、暴力をちらつかせて社会に脅威を与えるために、こうしたシステムが使われているとすれば残念でならない。

情報元
https://news.allabout.co.jp/articles/o/47775/